第51章 約束の地へ(6)
大きく深呼吸して、呼吸を整えてからゆっくりと近づく。
「お侍さん、今日は何しにきたんですか?」
ただ、ぼっーと花を見つめるお侍さんの隣に私は腰掛け話しかける。
「………また、あんたか」
お侍さんは私を横目で見るとすぐに視線を前に向け、面倒臭さそうにそう答えた。
「今日はお仕事お休みですか?」
「…………」
「今日は天気も良いですから、気分が良いですね!」
「…………」
お侍さんは相変わらず私の話を無視して、遠くを見つめるように真っ直ぐに前を向いたまま……。
「あの………」
「………はあ」
お侍さんは諦めたようにため息を吐くと、私の方に視線を向ける。
「……この前からしつこいけど、何か用?」
「えっと……用は特にありませんが、ちょっとお話したいな、と思って」
「俺はしたくないんだけど」
冷たい言葉に一瞬怯みそうになりながらも、何か話題はないかと悩んでいると……突然背後から足音が聞こえ振り返る。
「家康、やっぱりここに居たか」
「……どうしたんですか?秀吉さんが俺を探しに来るなんて……珍しい」
(このお侍さん、家康って名前なんだ……)
「実はな……っと、その前にこちらのお嬢さんは?」
私は慌てて頭を下げ、自己紹介をする。
「そこの団子屋の娘で、ひまりと申します」
「へ……?ひまりっ!!」
何故か私の名前を聞いた瞬間、男の人は目を瞬きをすると、勢いよく家康さんの方に首を動かした。
「……変な勘違いしないで下さいよ。それより何の用ですか?」
「あ、あぁ…。今、城に佐助が来て……」
「佐助がっ!?」
男の人の話を途中で遮り、家康さんはあっという間に姿を消してしまった。
「相変わらずだな、あいつ。ひまりの事になるとすぐ……」
「え……?」
「あっ、すまない。ややこしい言い方をして。君のことではなくて、家康の許婚の方のひまりなんだよ」
「許婚の方が……いらっしゃるのですか?」
私はその言葉に胸がちくりと痛む。
(だからあの時、私の名前聞いて振り返ったんだ……)
「今は、ある事情で遠くに行っているけどな………」
男の人は少し切なそうに目を伏せ、走り去った家康さんの後を追うように姿を消した。