第51章 約束の地へ(6)
「はあ………」
私は店先で掃除をしながら、今日何度目のため息を吐く。放棄を持っていても手は止まったまま。あっちにうろうろ、こっちにうろうろ。そして立ち止まってまた溜息を吐く……店のお客さんに言い寄られている所を、ある人に助けて貰ってからずっとこんな調子が続いていた。
「何だひまり、もしかして恋煩いか?」
「えっ!?」
父にそう聞かれ、
私は顔に熱が上がってくるのが解る。自覚がないわけない。そう……これはきっと恋煩い。
「べ、別にそんなんじゃないよっ!」
けれど私は誤魔化す。ニヤリと笑う父を見て誤魔化しきれてないことを悟ると私は赤くなった顔を手ぬぐいで隠しながら、掃除を続ける。……すると、ふと少し離れた野原で座り込む後ろ姿を見つけて……気づいたら放棄を父に渡して走り出す準備。
「ちょっとだけ、出かけてくるっ!!」
「へ……?おいっ、ひまり!!」
店、どうすんだっ!!
と、背後から叫ぶ父親の声は無視。もう何も考えれなかった。ただ、会いたい。話したい。今日こそは……私は頭をそんな言葉でいっぱいにして、一目散にその背中に向かって走った。