第50章 約束の地へ(5)
「ちょっ……!ごめんっ、そんなに嫌っだった!?」
今まで見たことがないぐらい、慌てる先輩に私は涙を擦りながら、首を横に振る。
「自分でも解らなくてっ……ほ、んとすい……ま、せん」
それから先輩は私が泣き止むまで、ただ静かに隣に居てくれた。
(私はきっと……)
誰かを忘れてしまったんだ。
絶対に忘れてはいけない人を。
そんな人を
どうして忘れたの?
そして次の日___
部屋に掛けてある薄黄色の着物。まるで小舟みたいにゆらゆらとベランダから入り込んだ風で揺れる。それは私が倒れていた時に来ていた着物……看護婦さんが汚れていたからと、後でクリーニングを出してくれていた事をすっかり忘れていて……それが今朝、届いた。
(京都だったから着物で散策とかしていたのかな……何にも思い出せない)
私はふと目覚めた時につけていた物の事を思い出し、チェストの引き出しからそれを取り出す。
(イヤリングとは少し違うみたいだし……)
この時代にはないタイプの物。
でも、確かに私は耳にこれを付けていた。
(それに何で片方だけなのかな……)
もう片方は一体、どこに?