第50章 約束の地へ(5)
「先輩っ!どうしたんですか、突然っ!?」
「部長からあんたの家を聞いて……どうせまともに寝てないだろうと思って見に来た」
はい、差し入れ。
先輩はケーキの箱を私に渡すと、お邪魔します。と言って部屋の中に入っていく。
「えっ?ま、待って下さいっ、今、部屋散らかって……!」
「気にしないからいい。……へぇ、デザイン画はもう出来てるんだ」
昼間とはいえ、一人暮らしの部屋に男性を招き入れることに抵抗がある私とは違い、先輩は素知らぬ顔でデザイン画を眺めている。
(ほんと、強引なんだからっ!)
私は諦めて差し入れに貰った箱を開ける。中に入っていた美味しそうなケーキを取り出し、コーヒーを沸かす。
「ベースはドレスじゃなくて、着物にするんだ」
「なんか、その方が今回のテーマにも合うかな?って思って……可笑しいですか?」
私はリビングの机にケーキを並べ、先輩の前にコーヒーを差し出す。
「……白無垢のドレスか。ぼっーとしてる、あんたらしい」
「ふふっ、それ……どうゆう意味ですか?」
馬鹿にされてるのか、褒めらているのかよく解らない言葉に思わず笑顔が溢れる。すると、先輩は驚いたように目を開き、コーヒーを机に置くと目線だけ横に向けた。
(あれ?何か変なこと言ったかな?)
「………先輩?」
「…初めて見た……それ、反則」
先輩はゆっくり私に近づき、髪を掻き上げ……
「笑ったとこ。………可愛すぎ」
ドクンッ……。
ーー………想像以上に……可愛い。
ーー可愛すぎてもう、無理。……帰ったら覚悟しなよ。
ーーひまり、その顔。可愛いすぎっ……。
ーー……ひまり可愛い……もっと、声聞かせて。
……ほんと、可愛すぎ。
ドクンッ!!
先輩とは違う誰かが耳元で囁く。
震える手で口元を覆った瞬間……一気に私の瞳から生暖かいものが滑り落ちた。