第50章 約束の地へ(5)
「家康さんっ!こんにちはっ!」
「…………あんた、しつこい」
またか、と思い俺は深いため息を吐く。下手にこれ以上関わりたくない。俺はその場から立ち去るためサッと立ち上がった。
すると、懐からあるものが滑り落ちる。
慌てて地面を見ると、そこには……
「これ耳飾り……?……わぁ、可愛いですねっ!」
「触るなっ!!」
触れられる前に俺は声を上げ、
自分の手で拾い上げる。
「……い、えやすさん?」
震える声が聞こえ、
ハッとして懐にそれを仕舞う。
「……これは、大切な物だから」
唯一これだけがひまりと繋がる確かなもの。
誰にも触れて欲しくない。
俺は驚いたように目を見開く女に、視線を向け低い声を出す。
「あんたが何でしつこく話しかけてくるのかは、知らないけど……」
俺にしたら、迷惑なだけだから。
女が走り去った後、もう一度懐から耳飾りを取り出し握りしめる。
ーーふふっ……いつも家康の懐から返ってくるね。
そう、言って嬉しそうに笑うひまりを思い出し、俺は視線を下に落とす。
「片方、ここにあるから……」
早く取りにおいで。
足元に咲いている黄色い花が、
代わりに返事をしたように揺れた。