第50章 約束の地へ(5)
カタカタカタカタッ……。
部屋の中で響く心地よいミシンの音。リズムを刻みながら、針が動く。
ーーひまり、私はあなたを推薦するから頑張りなさい,
この前の食事会で部長にそう言われた時は、本当に嬉しくて思わず飛び上がってしまった。
ーーはしゃぎ過ぎ……時間があんまりないのちゃんと解ってる?
今にも踊り出しそうな私を見て、先輩はきつい言葉を吐きながらも応援してくれた。
(残り一ヶ月……何とか間に合わせないとっ!)
私は白いシルクの生地を手で滑らせながら、ミシンを動かす。毎年会社で行われているウェディングドレス制作のショーイベント。出場権利は各部署の新人から一人……推薦を貰った人だけが参加出来る仕組み。まさか部長が推薦してくれるなんて思ってもいなくて、その話を聞いた時は本当に夢かと思ってしまった。
今回のテーマは「時を超えて」
あの一人旅から何故か和服に興味を持ち出していた私は、そのテーマを聞いた時すぐに頭の中にスッとイメージが浮かんで……まるで、以前から考えていたみたいに鮮明なデザインが溢れ出した。
(後は、和と洋をどう組み合わせていくかなんだけど……)
デザイン画を見ながら、レースや刺繍、ポイントになる飾りをどんな形や生地にするかを悩んでいると……
ピンポーン。
家のインターホンが鳴り、私はそっと映り出された姿を見て急いでドアを開ける。