第48章 約束の地へ(3)
「……そこ、通行の邪魔なんだけど」
突然頭上から声が聞こえ、ハッとして顔を上げる。
「先輩……」
「何、この世の終わりみたいな顔してんの?」
そう言って眉間に皺を寄せる先輩が誰かの姿と重なる気がして、不思議な気分になる。
「……別に何でもありません。失礼します」
涙が出そうになるのを隠す為、その場から急いで立ち去ろうとした時……突然先輩に腕を掴まれる。
「あんた、俺のこと避けてない?」
「は、離して下さい!別に避けてなんかっ……」
「嘘。……他の奴と態度、全然違うし」
そう言われて、私はギュッと唇を噛みしめる。
(避けているつもりはなかった……)
でも……
「答えるまで離さないよ」
真っ直ぐな瞳で見られ、私は思わず自分のつま先に視線を落とす。
「…………先輩と居ると、胸が苦しくなるんです。別に嫌いとかじゃなくて、その……」
自分でもよく解らなくて……
私は正直に自分の気持ちを話す。
入社してからずっと、先輩の口調や意地悪な態度に、何故か胸がざわついて……無意識に距離を取っていた気がする。
(先輩は何も悪くないのに……)
「変なこと言って。……すいません」
「………解った」
先輩は掴んでいた腕を静かに放すと、私の頭にそっと手を置いた。
「……嫌われてないなら、別にいい」
少し緩んだ先輩の表情に、私は少しだけ気持ちが軽くなる。それよりあんたも部長に、呼ばれてるんじゃないの?そう問われ、すっかり大事な用事を忘れていた私は服の裾を捲り、腕時計を見る。
「どうしよう!待ち合わせの時間過ぎてるっ!急がないとっ!!」
(あれ?でも今、あんたもって……)
不思議に思って先輩を見ると……
「何?俺も一緒だと嫌なの?」
不機嫌そうにそう聞かれ、私は首を横に振る。
「早く、行くよ」
ライトアップされた街の中、私は静かに先輩の後をついていった。