第46章 約束の地へ(1)
それから数日後___
「ひまり!!」
「わっ!!」
突然背後から声を掛けられ、私は驚いて椅子から転げ落ちそうになる。
「あなた時々、ぼっーとしてるけど……」
ちゃんとヤル気ある?
そう部長に言われ、私は慌てて頭を下げた。
「す、すいませんっ。ちょっと気になることがあって……以後気を付けますっ!」
必死に謝る私に部長は軽く息を吐くと、下げた頭をポンと叩き苦笑いを浮かべお小言ではなく、逆に褒めてくれる。
「まぁ……あなたがこの前企画したデザイン高評価だったし、雑用もしっかりやってくれてるから良いけど……」
ちゃんと集中しなさいよ。
「はいっ!!」
それが嬉しくて。私は部長に元気良く返事をすると、いそいそデスクに置かれたデザイン画の制作に取り組む。
念願叶って、やっと憧れのファッション系の大手企業に就職出来た。まだ、見習いで雑用仕事が主に中心だけど、一ヶ月経って少しずつデザインの提案もさせて貰える機会が増えてきて……とても充実した毎日を送れている。
(ただ……どうしても、観光に出掛けた日からの三ヶ月間が思い出せなくて……)
突然涙が出たり、頭の中で何かが引っかかってる気がして……自分でも気付かない内に、ぼっーとしてる事がよくある。
「部長に注意されたのに、早速ぼっーとしてるけど」
そう声を掛けてきたのは隣の席にいる先輩。さっきのやり取りを見ていたみたいで、先輩の口調は呆れたような言い方。
「し、してませんよっ!今のはちょっと考えごとしてただけです」
「ひまりでも考えごとするんだ?」
意地悪い笑みを浮かべながら、サラッと人を馬鹿にする先輩に私はプイッと顔を背け、再び手を動かし仕事に集中する。三つ年上の先輩は、女性社員が多いこの部署で唯一の若い男性社員で、密かに人気があるって聞いた。
(私にとっては、ただの意地悪な先輩でしかないけど)
私はチラリと横目で先輩を盗み見る。
すると何故か先輩も私を見ていて、バッチリと目が合い慌てて視線を逸らした。