第7章 願い…〜家康side〜
第七章「願い……〜家康side〜」
思い出したくない幼少時代。
消し去りたい過去。
「……お前は、今日からこの鳥籠で人質として過ごすんだ」
「弱い奴なんか、こっちくるなっ!」
「生き残りたければ、大人しく従え」
人質として、あちこちの地を、たらい回しされながら暮らしてきた。
この乱世の時代、特にそれは珍しい事でもなく何処にでもある話。
だから、誰かを恨むとか、憎いとか、そうゆう感情を抱く事はなかった。
ただ、どこへ行っても肩身は狭くて、いつ殺されるか解らない日々に、まだ幼い俺は、怯えながら過ごしていたのは間違いない。
チビで泣き虫で、学問しか取り柄がなかった俺は、ある日、あの人に出会った。
「お前の事、今日から家康って呼ぶ!俺様の事は信長様って呼べっ!」
「また、泣いてるのかっ!泣くぐらいなら力をつける努力をしろっ!」
「できる事は何でもしろっ!そして成り上がってこい!俺様が一緒に天下を見せてやるっ!」
兄貴振るあの人は、時々やってきては、俺の苦手な水の中に頭から放り投げるし、根性つけろとか意味の解らない事ばかり言って、人を木の上に無理やり登らせるし……
でも、今思えば、あの頃から俺は少し変わっていった。
強くなるために、有りとあらゆるモノを必死に身につけ、少しずつ這い上がっていった。
「あの女をお前の御殿に預ける」
「……なんで、俺なんですか?」
理由はお前が一番解っているのではないか?この人は昔と少しも変わらない、相変わらず無茶苦茶な事ばっかり。
「あんな、お荷物いりません」
「……俺の命は絶対だ。それにあの女ただのお荷物とは限らん」
俺にとっても、お前にとってもな。
「私は確かに弱いです。だからこそ、もう逃げないって決めましたっ!」
「おはようございますっ!あっ!今朝またワサビが……」
「……大切にするねっ!家康ありがとうっ!」
耳飾りをつけ、髪をかき上げながら見せた笑顔は本当に眩しくて、俺は視線を逸らすのが精一杯だった。