第44章 捕らわれた未来(17)
でも……
「誤解されて、喧嘩になるぐらいなら……」
ちゃんと話しておけば良かった。
今更そんな事を後悔しても遅いのに、今の私には悔やむことしか出来なかった。
初めて向けられた怒鳴り声。
初めて拒絶された手。
初めて見た絶望を浮かべたような瞳。
もうあんな家康は見たくない。
(お見送りして、早くここから離れないと……)
2日あれば、何とか自分の力で遠くに行けるはず。
そう思い、私は重たい足を動かし荷造りを始める。そして寝所に置き手紙と耳飾りを片方だけ添えて、出立を見送りに天幕から飛び出す。
「家康っ!!」
私はありったけの勇気を振り絞り、馬に乗った家康の名前を呼ぶ。
少し離れた所で、振り返る家康の顔を焼き付けて……後悔しないように。二度と戻らないこの時を大切に。
私らしく笑顔で……
「いってらっしゃい!」
待ってるなんて、嘘でも言えなかった。涙を堪えて、全部言葉を飲み込んで、想いだけ全部込める。
大好きだよ。
「よろしいのですか?もっと、お近くでお見送りになさらなくても?」
「うん……いいの。……あっ!三成君、私しばらく針仕事に集中したいから、天幕にいるねっ!!」
「……解りました。人手不足の為、夕どきには炊き出しのお手伝いを、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「うんっ!また、声掛けに行くね!」
三成君に嘘を吐いてしまった。
その事で胸がちくりと痛む。
(ごめんなさい)
私は心の中で謝ると馬を連れ出し、
その場を後にした。