第44章 捕らわれた未来(17)
結局あの後、家康は戻ってこなくて私は一人で朝を迎えてしまった。
「……ひどい顔」
手鏡に映る自分の顔。ふにゃっと無理やり笑う自分を見て、思わず声が出る。ほとんど眠らず泣き続けた私の瞼は、赤く腫れ上がり擦りすぎた目尻は傷になっていた。
(見送りに行かないと……)
そう思いながらも、私の身体は微動だに動こうしなくて……昨日の佐助君との話が蘇る。
ーーワームホールの動きが変化しているって、前に話したの覚えてる?
ーーうん。でも、もう佐助君も帰らないんだよね?だったら場所が特定出来なくても……。
ーー……特定出来ない訳じゃなくて、ある人の動きに合わせて変化してたんだ。ひまりさんのね……。
ーーどうして私なのっ!!
ーー……それは解らない。現に今も出現場所が、君のいるこの付近に変わっている。
前は安土城、この前は春日山。
そして今はここに……
ーーこのままだと強制的に君は元の時代……俺たちの世界に還されてしまう。
ーーそんなっ……私、家康が居るこの世界で生きていくって決めたのっ!何があっても、もう二度と離れないって誓ったの!!
ーー……ごめん。原因が解らない以上、俺にはどうする事も出来ない。
私はギュッと目を瞑り、鏡を置く。
きっとこの後の会話を、家康に聞かれて勘違いされたんだ。だからあんな風に…
ーー佐助と一緒に居たいなら、さっさと故郷に帰れば。婚約なんて解消してあげるから。
突然言ったんだ。
春日山で捕まった時……佐助君に、未来から来た話を家康にはしないのかって、聞かれた。
ーー……家康は、きっとこんな嘘みたいな話でもちゃんと説明したら、解ってくれると思う。でも……。
家康と一緒に居たいから戻らない。
なんて言ったら……
(きっと、優しい家康は責任を感じてしまう)
例え少しでも、自分のせいで私が生まれ育った世界を捨てたって……思われるのが嫌で……今までずっと言えなかった。
私の気持ちを聞いて、佐助君は
俺からは言わない。
って言ってくれた。