第40章 捕らわれた未来(13)
「……揉めている暇はありません。単刀直入に話します。俺はひまりさんの友人です」
「………え?ひまりの」
意外な接点に驚き、思わず手を緩める。
(そう言えばこの男の声、何処かで聞いた覚えが……)
ーーまたくるから。
出陣前夜に聞こえた声。それが、目の前のメガネを掛けた男の声と被る。
「……あの夜、ひまりと話してたのは、あんただったんだ」
あの時は酒も入ってたし、結局風の音か何かを聞き間違えたのかと思い、すっかり忘れていた。
「あの時、俺が城に忍び込んでいるのがバレないように、彼女は咄嗟に誤魔化してくれたんです」
「………忍び込んで……なら、あんたはひまりの友人であり、上杉の手下でもあるって事だよね」
「それは否定しません。でも俺はひまりさんの味方です。だからあなたに彼女を救い出して欲しい」
矛盾しているメガネの言葉に罠かもしれないと思いながらも、ひまりを救い出せるかもしれない、そんな期待が混じる。
「……ひまりはあんたが上杉の手下だと知ってるの?」
「前まで彼女は知りませんでした。俺とひまりさんが密会してたのは故郷が同じだからです」
「おいっ、故郷が同じなのは、聞いてないぞっ!!」
しばらく隣で静かに俺達の話を聞いていた真田は、驚いたように声を上げる。
「……幸村だけじゃなく、誰にもその事は言ってないからね。恐らくひまりさんも故郷の話はしていないのでは?」
「……少なくとも俺は聞いていない」
今まで故郷の話どころか、昔の話も聞いたことがなかった。言われて初めて疑問に思う。
(何か理由が……)
自分の知らないひまりの事を、目の前の男は知っている……その事が無性に心をかき乱す。
黙り込む俺にメガネは心境を察したのか、
「その話はひまりさんの口から聞いて下さい。今は救出するのが先です。彼女は地下牢にいて、恐らく謙信様ご自身が牢番に……」
詳しくは本人から聞くようにと、
今のひまりの状況を手早く話した。