第6章 願い…
第六章「願い……」
家康が浪人の捕獲に出掛けてから、半日が過ぎようとしていた。一旦、安土城に戻された私は信長様達と一緒に家康の帰りを待つ。
ふと、窓の外に目を移すと、いつの間にか薄暗くなり、月が登り始めている。
(……さっきから、ずっと胸騒ぎがして落ち着かない)
「……すぐ、戻るから。あんたはただ、へらへら笑って待ってて」
ゆっくりと登っていく月を見ながら、朝のやり取りを思い出す。室内にも関わらず、頬を掠める空気が妙に冷たく感じ、余計に不安が募る気がした。
「……ひまり、貴様が妙にしおらしいと調子が狂う。何か芸でも一つ披露したら、どうだ?」
「なっ……!こんな時にそんな事出来ませんっ!」
相変わらず無茶苦茶な事を言い出だす信長様に、私は眉をひそめる。
「……それだけの威勢があれば大丈夫そうだな。家康は必ず戻る、お前が不安になる事はない」
その言葉を聞いて、信長様なりに気を使ってくれたのだと、私は思った。
(……きっと、大丈夫だよね)
私は不安をかき消すように髪をかきあげ、家康から貰った耳飾りに触れる。
「……失くさないでよ」
私の髪をかきあげ、そっとつけてくれた手は暖かくて、そっぽを向いた目元は少しだけ赤い気がした。
安土に着くまでの間、さんざん光秀さんにはからかわれたけど……
(本当に嬉しかった……)
少しだけ軽くなった気持ちを確かめるようにもう一度、耳元に触れようと手を伸ばした
次の瞬間……
カシャンッ
まるで滑り落ちるように、耳飾りが不吉な音を立てながら床に転がる……
「失礼しますっ!」
それと同時に襖が勢い良く開いて、飛び込むように入ってきたのは血だらけの兵士と三成くんだった。
その場に居た全員が、尋常じゃないほど青ざめた三成くんを見て、緊迫した雰囲気で立ち上がる。
「い、家康様が、敵に捕まりました」
いつもと明らかに違う声色で、三成君は信長様の前に膝まずき、事の成り行きを報告する。
その話に私の頭は、
一気に真っ白になった。