第40章 捕らわれた未来(13)
信長様達よりも先に春日山に向かい、俺は寝る間も惜しんで馬を走らせた。
一刻でも早く、ひまりの元に駆けつけたい。俺は手綱を持ったまま片方の手で、耳飾りを握りしめる。
「上杉からの文にこれが……」
三成から渡された文の中に包んであった、ひまりの髪と片方だけの耳飾りを見た瞬間……頭が真っ白になった。
何かが崩れるように、
俺の中が壊れていった。
手足を縛られ、髪を切られ、怯えるひまりを、想像した瞬間。
(……死ぬことより、酷かった)
春日山城が山の上に見え、馬から降りる。ここからは、ひと目に付かないように歩いて行くしかない。
(死んだことになっている以上、見つかる訳にはいかない)
俺が動きやすくする為、徳川家康は不明の死を遂げた。と、情報を流した信長様。
(不明の死じゃなくて、俺はあの人に殺されたんだけど……)
自分を見失い、立場も忘れ、初めて命令に背き、ひまりの元へ向かう俺にあの人は刀を向けた。
ーー死んでから、行け。
ーー家康様っ!!
カキンッ!!
咄嗟に間を取って、刀を引き抜きぶつかる。交わった刀と俺の瞳をじっと見て、あの人はニヤリと笑い刀を鞘に戻した。
ーー……少し遅いが、まぁそれだけ感覚が戻っておれば、上杉ぐらいどうにかなるだろ。行け。
お前はたった今、死んだ。
奴らの目を欺く為、俺はゆっくり援軍を連れて向かう。恐らく今回も顕如が関わり裏で糸を引いている……なら、両方の奴らを油断させ俺が囮になっている間に、必ずひまりを取り返してこい、と信長様は告げた。
ーー……ひまりを連れてきたのは俺だ。その責任はとってやる。
あの人も、三成も兵士達もひまりを心配している。
(必ず連れ戻す)
そして今度こそ
何があっても
二度と離さない。