第39章 捕らわれた未来(12)
瞳を閉じると、今までの出来事が早送りしたみたいに頭の中で次々と浮かんでくる。
初めて出会った時。
ーー……弱い奴には興味ないから。
まるで私なんか見えてないように、
感情のない声で言われ……
御殿で暮らし始めた時。
ーーくれぐれも面倒掛けないでよ。………鬱陶しいから。
冷たい言葉がいくつも胸を突き刺した。
初めて笑顔を見た時。
ーーなら、気に入られたついでにワサビの餌やりあんたの仕事ね。
その表情に胸の中がじんわり温かくなって。初めて名前を呼ばれて、ドキドキして。初めて抱き締められて、照れくさそうにそっぽを向く横顔を見て、耳飾りを渡す目元が赤く染まっていて、少しだけ近づけた心にもっと触れたくて……
それから、家康の優しさも強さも沢山知った。
好きにならない理由なんて何処にも無かった。
夕日に染まった横顔。
月明かりの中、悲しみに揺れた瞳。
私を守る為に突き放した言葉。
息ができなくなるぐらい、胸が苦しくて……。
初めて聞いた本音。
初めて交わした口付け。
初めて抱かれた夜に。
これ以上ないほどの幸せを貰った。
それからは、表に出さなかった優しさを沢山見せてくれるようになって……意地悪な言葉も素っ気ない言葉も、まるで最初からそうだったかのように、自然と甘い言葉に変わっていた。
必ず帰る。
待ってて。
俺は無敵になれるから。
行ってきます。
家康が居なくなったなんて……。