第38章 捕らわれた未来(11)
ーー怪我を負った徳川の容態を心配し、信長と駆けつけたようです。
(……あの時、確かそんな事も言っておったな)
信長の事以外は眼中になく、すっかりそんな話を忘れていた俺は柵の間に己の腕を入れ、ひまりの頬に触れる。
理由などない。
感情などない。
ただ、無償に触れたくなった。
「や、やめっ………!」
「……そんなに、あの三河の成り上がりがいいか?」
咄嗟に俺の手から離れようとするひまり。その華奢な腕を掴めば必死に逃れようと、身体を後ろに引き暴れ始めた。俺はもう片方の腕を伸ばし、ひまりを引き寄せる。
「触らないでっ!!」
俺を睨みつける赤く潤んだ瞳。自分に触れて良いのは家康だけだ、と訴えているように見え、吐き気がするほどの黒い感情が渦巻く。
「……さっき、報告があった。徳川が……」
死んだ。とな……
わざと反応を楽しむように、俺が笑みを浮かべながらそう言うと、潤んだ瞳が大きく揺れ、予想通り希望を失ったように一気に絶望の色へと変わる。
「………そ……っ…な、い」
腕からひまりの震えが伝わる。
「……う、…そんなわ、け………」
掴んだ手に冷たい雫が落ち……
「そんなの嘘っ!……っ家康は私を置いて死んだりなんかしないっ!!」
振りほどかれた腕が、行き場を失い柵に寄り掛かかる。
初めて女の涙に、赤い血より興味が沸いた。