第38章 捕らわれた未来(11)
俺はひまりにその報告をしてやろうと、牢屋へ向かう。すると、いつの間にか檻の中に着物や家具が運び込まれ、所狭しくずらりと並んでいる光景が目に飛び込んだ。
その中で肩身狭そうにひまりが座って居るのが見え、俺は近づいて声を掛ける。
「……信玄の仕業か」
それだけで通じたのかひまりは、その言葉に苦笑いを浮かべる。
「……お断りしたのですが、気づいたらいつの間にかこんな事に」
脅しに来てから、何度か牢屋に足を運び他愛のない話を繰り返す内に、すっかり俺への警戒心が薄まったのか、ひまりはそう言って困ったように、
化粧道具、布団、鏡……
ここに足を運ぶ度、信玄が差し入れと称して置いていったことを話す。
(あの女好きがやりそうな手だ)
「……今すぐ捨ててやる。その代わり俺が新しい物を揃えて……」
「い、いりませんっ!それよりも此処から出して下さいっ!!」
「……やっと、信長が動き出した……お前が此処から出るのは、あやつの首を俺が取った後だ」
その言葉を聞いて、ひまりは一目散に檻の柵に飛び付く。
「家康はっ……まさかっ、家康も!!」
取り乱したように、何度も徳川の名前を呼ぶ姿に俺は今まで沸いたことのない感情が、流れる。
(……何だ、この腹の底から湧く苛立ちは)
「答えて下さいっ!家康は、家康はっ!!」
今にも涙を流しそうな目元。わなわなと震える花びらのような唇。それを見て、徳川が一方的に溺愛している訳ではないことが解る。