第37章 捕らわれた未来(10)
窓一つない牢屋に閉じ込められてから、一日が過ぎた。
騒ぐのを止め、大人しくなった私を見て牢番はやれやれといった様子で、背を向けまた見張りを始める。
何度も逃げだそうと、色々と試してはみたけれど……
(そんなに簡単に逃げ出せるわけないよね…)
しん、とした静けさが漂う空間に、不安で押し潰されそうになり私は身を縮こませて足を抱える。
待ってる、って約束したのに。結局、約束破って勝手なことばっかりして……。結局迷惑しか掛けれない自分が、自分でも嫌になる。
私は片方だけ残った耳飾りを手のひらに乗せ、じっと見つめる。
(……家康)
築姫の時に、好きな人に好きって言えない辛さを知った。そして今は、会いたい人に会えない辛さが身にしみて解る。
(……駄目っ!弱気になってる暇があったら、何とかここから出る方法を考えないとっ)
今は、生きて此処から出ることが優先だと思い、私は気合を入れるように、自分の頬を数回叩いた後、勢い良く立ち上がる。
すると、懐から何かが滑り落ち床の上で金属がぶつかる音が響く。
(あっ!!)
それが護身用に持たされた刀だと解り、私は牢番に気づかれる前にそれを拾い上げもう一度、懐の中にしまう。
(……いざという時は、自分の身は自分で守らないと)
人に向ける事は出来なくても、脅しぐらいにはなるかもしれない。
そう思った時、誰かが近づいてくる足音が聞こえ、ハッとして顔を上げる。
「……人質は人質らしく大人しくしていろ、二度と逃げだそうとなど馬鹿な真似は止めろ」
脱走しようとした私に忠告をしに来たのか、謙信は側に歩み寄り、冷たい視線を柵の向こうから浴びせる。
その無表情の中にある恐怖に、足が震え出し、私は拳を握りしめ声を出す。