第35章 捕らわれた未来(8)
(大丈夫……家康ならきっと……)
浪人に襲われた時だって、どんなに傷だらけになっても、ちゃんと戻って来てくれて、元気になってくれた。
だから、大丈夫。
私は自分に言い聞かせるように、何度も心の中で呟く。すると握っていた手から微かに震えとは違う、ピクリとした動きを感じて、私は慌てて顔を上げる。
「……ひまり?」
「家康っ!」
家康の瞼がゆっくりと開いて、私の姿が翠色の瞳の中に映る。
(えっ……)
目が合っているはずなのに、まるで焦点が合ってないように、霞んでいて……
私は必死に名前を呼び続ける。
「家康っ!家康っ!」
「……ひまりの声が……聞こ、え……夢で……も見て……」
(そんな……)
家康の瞼が落ちるのと同時に、目の前が一気にぼやける。
「ひっ、……く、っ…っ」
どうして行かないでって、言えなかったんだろう。どうして皆にまだ怪我が治ってないことを、言わなかったんだろう。
どうして付いてこなかったんだろう。どうして無理やりでも側に居なかったんだろう。
どうして……
どうして。
とてつもない程の後悔と一緒に、涙が勢い良く私から溢れ出す。
戻って来た三成君は泣きじゃくる私を見て、しばらく何も言わず黙って、側に居てくれた。
そして私が泣き止むと、血で染まった羽織と巾着を見せてくれて……
「戦中、肌身離さず持っていたそうですよ」
巾着をあけるとワサビの人形が入っていて……まるで作り立ての時のように、綺麗だった。