第35章 捕らわれた未来(8)
私と信長様が陣営に着いたのは、日付が変わりかけた深夜のことだった。
(家康……)
荒い呼吸を繰り返し、冷や汗で溢れた家康の顔に手ぬぐいをあてる。
「……ひまり様、この解毒剤があればもう大丈夫です」
家康様の調合した薬は本当に凄いですから、と三成君は私が安心するように肩に手を置き優しく微笑む。
「薬の量を調べて来ますので、それまで家康様の側に居てあげて下さい」
私がその言葉に頷くと、三成君はもう一度「きっと、すぐ良くなります」と、言って天幕から姿を消した。
(三成君もきっと凄く心配してる……)
さっき信長様と三成君の会話をこっそり聞いてしまった私は、不安で胸が押し潰されそうになる。
ーー……昼から容態の悪化が進み、今は殆どお休みになられています。
ーー恐らく古傷も影響しているだろう……だがあいつはこの程度で如何にかなるような弱い男ではない。
ーーはい。この解毒剤でかなり回復の見込みが期待出来ると思います。……しかし時間はしばらく必要かと。
古傷がまだ残っていた事は知っていた。
最後に抱かれたあの日、確かに家康の右肩には包帯が巻かれていた。
(……矢があたった所と同じ)
私は痙攣を起こしたように、小刻みに震える家康の手を両手で包み込む。
冷たくなった手に微かにぬくもりがある事を確認して、私は祈るように自分の頬に擦り寄せた。