第35章 捕らわれた未来(8)
春日城で佐助に戦の足止めをされ、退屈な日々にそろそろ嫌気がさしていた頃、ようやく俺の刀が喜びの声をあげる朗報が入る。
「……赤鬼が養女に迎え入れた女だと?」
「は、はいっ!信長のお気に入りで、その上、徳川の寵愛を受け近々輿入れまで予定しているようです!」
その証拠に、怪我を負った徳川の容態を心配し戦場にも関わらず信長と共に駆けつけた模様です。
俺は愛刀を素早く引き抜き、指で愛でるようになぞりあげ冷ややかな笑みを浮かべる。
そして目の前の部下に鋭い刃を向け、顎の下にピタリとあて……
「……今すぐ、その女連れてこい」
俺の刀の餌食になりたくなければ、な。
その言葉に、真っ青な顔を浮かべ部屋から飛び出す部下を見て、刀をサッと振り鞘の中に仕舞う。
このまま戦場に出向いて、信長の首を取りに行くのもいいが……どうせなら万全の体制で城におびき寄せ、迎え撃ちしてやる。
女には何の興味もないが、赤鬼の首を取る材料になればそれで良い。
「……退屈で死んでしまう前に……早く来い、信長」
上杉謙信、この俺が貴様の首を貰ってやる。
妖しい笑みが
もう、そこまで
近づいていた。