第35章 捕らわれた未来(8)
安土城___
三成からの伝達が届き、ひまり以外の者は広間に集まり緊迫した顔を浮かべていた。
「……罠だろうが構わん。俺が行く」
「し、しかし!それでは相手の思う壺ですっ!」
「あいつは充分に武功を立てた、たまには褒めてやらんとな」
すぐに向かう!!誰かその間に家康の御殿に行き、解毒剤を取りに行ってこい。
信長はそう声をあげ羽織を翻しながら、広間を後にした。
その頃、御殿にて___
「ひまり様っ!お久しぶりでございます!」
「ごめんなさいっ、いつも突然お邪魔してばかりで……昨日、美味しい林檎を頂いたので、ワサビに少しあげたくて持ってきました」
「いつもありがとう御座います。ワサビもきっと喜びます。さぁ、どうぞ中へお上がり下さいませ」
ひまりはこの後、解毒剤を取りに来た家臣とかち合い、家康の容態を知ることになり……城に向かって走り出す。
「お願いしますっ!!私も家康の所にっ、家康の側に行かせて下さいっ!!」
「……今回は大人しく城に居ろ。何があるか解らん」
「それなら尚更行かせて下さいっ!!家康に何かあったら……っ!!お願いします!!」
取り乱して泣きじゃくるひまりに、信長は護身用の短刀を渡し絶対に一人にならない事を条件に、家康の陣営に向かって馬を走らせた。
林道___
「やはり来たか……うまい具合に二人揃って来るとは、どうやら運が回ってきたらしい」
「今すぐ、上杉の元に知らせを送ります」
「……あの娘が何処まで戦の火種になるか……見物といこうか。その間に今川の同胞をかき集めておけ」
「はっ!」
近づく闇の足音は……
まだ、誰の耳にも
届いてはいない。