第19章 友が為
私は…自分の未熟さで、幕府に全てを奪われた。
母を打首にされて、師匠とは離れ離れになり、そして……
(大切な故郷でさえ、奈落によって全てを焼かれた。松下村塾の時と同じように……)
〜〜
ゴォォォッ
「ハァ…ハァ……ハァ…」
息を切らして見上げた先には、赤黒い炎が広がっていた。
日常の景色だった家々が赤い業火の中へ沈んでいく。
何もかも遅かった。
視線を下ろすと、至る所に人だったものが落ちていた。
いつも挨拶をしてくれたおじさんや、私達親子にいつもお裾分けをくれた婦人。
その顔は生気を失って硬直しており、いつも向けてくれた笑顔の一片も無かった。
おくるみに包まれた何かが落ちていたが、赤子だった。
羽化できず繭のまま死んだ蚕のように、固まっており、産声を上げる気配もない。
聞こえるのは、家が焼かれていく炎の轟音と聞こえるはずのない恨み節の声。
『お前達親子が来なければ、この集落はいつまでも平和だった』
『厄災をもたらした呪いの童め。お前はそもそも、生まれるはずのない化け物同然の鬼だ』
『返せ。死んで詫びろ。俺達の命を返せ』
「……ごめん、なさい…皆…ごめん……母さん」
私はそう呟きながら、首だけになっている母を、胸の中でぎゅっと抱きしめた。
〜〜
(あれから何度も、自分に刃を突き立てた。生きる目的も志も、何もかも無くした私は、生きた屍も同然だった…)
何度も試したけど、結局はできなかった。
自分を終わらせることはできなかった。
私は呪いの子だから。どうしてもその血が、"あの人"の血が、私を無理矢理にでも生かした。
苦しみながら生き続けろ。死んで楽にはさせない。
その汚れた業を背負い、今まで救ってきた人以上を、周りの人間全てを巻き込み、苦しめ、もがき続けろ。
それが、私に下された罰なのかもしれない。
(あの業火は、奈落の仕業だった。そして、松下村塾の時も、奴らの狙いは私だった。
・・・・ ・・・・・・・・・・
本当なら、私が捕まるはずだった。なのに……)
松陽はあの時、私を止めた。
私の正体に気付いてもなお、差し出すどころか、身を挺して私を護った。
(だから"私"は、アンタらの"仇"でもあるんだよ。晋助……)
雅は目の前の友に心の中で誓う。
もう3度も、同じ過ちを繰り返さない。