第18章 帰ったらまず、手を洗おう
「……見たくなければ目を瞑っていればいいだろう」
しかし雅は桂の思いに耳を貸すことはなかった。
「私は侍じゃない。この戦に勝つためならどんな手も使う。後悔しないためにな」
ついでに、さっき敵から得た情報を桂に話すことにした。
蠱毒という殺人ウィルスが蔓延して、その元凶は魘魅という傭兵部隊の頭だと。
「魘魅だと?」
「今後の戦はソイツを標的にした方がいい。元凶を倒さなきゃ、被害は拡大するばかりだからな」
「……その蠱毒というのは、お前がどうにかできるものなのか?」
「……」
いや、はっきり言って、治療法はない。ワクチンを作ろうにも、その実体はまだ分からない。
だが、敵陣営でも作っていないくらいだからな。
・・・・
普通なら作ることはできない。
「……不可能を可能にするのが、私の長所だ」
雅は「できない」とははっきり言わず、桂と共に拠点に帰った。
敵は奴らのことを“禁忌”と言ってたな。星一つを破壊しうるほどの力を持つと。
だったら、私は……
その時彼女はある記憶を掘り起こした。せんせーと約束した、ある“重要な部屋”のことだ。
彼女が師の技術の大半を会得した頃の話だ。
せんせーは幼い彼女が大きくなってもちゃんと憶えているように念入りに言い聞かせた。
『雅。俺は“ある秘術”を隠し持っている。お前にその存在を教えるが、それは使っちゃいけない代物だ』
『え?どうして?』
『俺の手にも余るものだからだ。使ったら必ずその身に“災い”が降りかかる。使い方を間違えれば、国が滅ぶかもしれない』
『!』
『俺はそれを“禁忌”と呼んで、誰にも知られないようにしている』
『禁忌?災い?』
『ああ。お前にその隠し場所の鍵を渡す。もし俺の身に何かあったら、お前が代わりにその門番を引き受けてくれ』
『……分かった。でも、せんせーが隠すほどすごい秘術って…』
『……普通は使っちゃいけねェ。だが、“ある条件”を満たした時にだけ、お前は自分の判断を信じて使えばいい』
『条件って何…?』
『それはつまり……』