第14章 少女よ、大志を抱け
男たちも路地裏に入っていき、高杉は走って向かい、路地裏の入り口あたりに潜んで、その奥を覗いた。
編み笠を被った旅人は路地裏の行き止まりでヤクザたちと対峙していた。
(どういう事だ?何でヤクザに追われて……)
ヤクザの1人が雅に話した。
「素直に承諾した方がいいぜ。さもなきゃお前はとんでもない輩を敵に回すぜ」
「とんでもない輩?私が今見えるのは、烏合の衆だが」
そんな会話が聞こえてきて、旅人の声は間違いなく雅だと確信した。
しかも敵に挑発的なことを言っている。
「私の敵は、生まれたときから決まっている。それもジンベエザメみたいに強大だ。そこにジンベエザメにくっついているあの変な魚みたいに、追加で何人増えようと高が知れてる」
(いや分かりずれェよその例え)
雅はよく分からない比喩表現で相手を挑発して、高杉はそれを心の中でツッコんだ。
ヤクザは懐から短刀を取り出した。
「高が知れてる?ハッ。全く知らねェようだから教えてやる。その魚はコバンザメって言うんだ。サメじゃないが、ジンベエザメにくっついていることで、敵から身を守り、エサのおこぼれを貰うずる賢い魚だ。覚えとけ小娘」
「ああ覚えておくよ」
(全く知らねェってそっちの話かよ?!一体何の話してんだコイツら?喧嘩前の会話じゃねーよ。水族館の飼育員と客の会話じゃねーか)
雅は右腰にある黒鞘の刀に手を伸ばした。
(アイツあの刀…ってそんなこと考えてる場合じゃねェ!)
「雅ッ!!」
「!」
『!!』
高杉は身を乗り出して声を出して、ヤクザ2人は後ろのその存在に気付いた。
(晋助…?)
雅も予想外の介入にビックリした。
「何でアンタがここに…!」
「それはこっちのセリフだ。ていうかこのやり取り前もやんなかったか?いやそれより、これがてめェの言う有意義な休日の過ごし方か?」
なぜヤクザなんかに目を付けられてしまったのか。
こうなった発端は、かなり前に遡る。
1年前、雅が藍屋で交渉を終えた後、丼物屋で昼食を摂っている時のことだ。