第14章 少女よ、大志を抱け
藍屋勘は羽織のデザイン図を片手に雅に再度確認した。
「しかし、こんなデザイン。私も初めて見ました。これでいいんですか?」
「ええ。動きやすさや収納を考えて。無理難題を押し付けて申し訳ないが、やれるだけやってほしいです」
「……分かりました。うちの店では染め上げて、他の知り合いの業者とコンタクトを取って作って、後日試着しに来てください」
「分かりました」
こうして、戦のための服は何とか調達することができ、雅は藍屋を去った。
「……お姉ちゃん、また来る?」
娘は藍屋勘の手を握って聞いた。
「ええ。今度はちゃんとお迎えしなければね。あ、あの方の好物を聞いておけばよかったわ」
お茶菓子が苦手だったら、どんな物を好むのだろうか。
「今度来たら、私が先生とお買い物して買ってくるよ」
「あら、それはいいわね」
「よし!じゃあ仕事に取りかかるか!お前らも手伝ってくれ!」
『!』
旦那は初めて女房と娘に手伝いを頼み、2人は嬉しさが込み上げて元気に返事をした。
雅が頼んだ戦の羽織のデザインは、見た目は長袖の青い陣羽織だ。
陣羽織にした理由は、動きやすいようにするためだ。
医者はわずかな時間で命を繋げる、常にスピード勝負だ。
袖が分厚くヒラヒラしたものだと、手術の邪魔になる恐れがあるから、なるべくコンパクトな服装にした。
小柄な彼女のサイズに合わせて作る。
そして何より彼女がこだわったのは、懐の部分だ。
そこには、メスなどの医療器具を収納するための無数のポケットを縫い付けるのだ。
そうなると、陣羽織の下には鎧をつけることは出来なくなるが、雅には必要なかった。
むしろ、重りになって動くスピードが遅くなるから、付けないことを前提にした。
時間はお昼前の11時頃。
雅は青空を見上げながら、賑やかな街並みを歩いた。
(……ねえせんせー、もう一度、がんばってみてもいいかな?大切な人のために)
大志なんて大層なものじゃないけど、目的はできた。
私は、私の持てる術を全て使い、あの3人と、他の仲間達を救いたい。
どんな重傷も、必ず治す。
この先何があろうと、3人が生き残れる道を選ぶ。
たとえ、何があろうと……