第13章 青い髪、赤い血
「あ……」
高杉はいきなりのことでフリーズした。
分かるのは、雅のおかげなのか腕の痛みがひいたこと。
「治してくれてありがとう」と礼を言うべきなのだが、本当に急に状況が変わって口が開かなかった。
「雅、今何をしたんだ?」
高杉の代わりに桂が口を開いた。
「……つった部分を少し押しただけ」
「すごいな。すぐに治してしまうなんて」
「ええ。彼女は本当に手当てが上手いですよ。私も見習うくらいです」
松陽は授業参観で我が子を自慢する親のように言った。
「塾でも怪我した子の手当てには、いつも彼女の手を借りています。いえ、あまり大きな声で言えませんが、私に手当のやり方を教えくれたのは彼女です」
本来教える側である自分が、手当てでは教わっている側だということを恥ずかしそうに言った。
「そんなに…?!」
桂は雅を見た。
ドヤ顔も浮かべず、いつも通りの無表情だ。
「彼女の剣の強みは、左利きによる特殊な型だけではありません。動きの無駄がないことです。彼女が手当てを丁寧にできるその器用さがいいんでしょうね」
雅が松陽に目を向けると、松陽はウィンクした。
(松陽先生……)
雅は、松陽との間にある秘密があった。
肌寒い夜の出来事だ。
『もっとも君は人を救う術を持っている。その点でも、君は周りとは違います』
松陽は雅が女童でありながら医術に携わっていることを知っていた。
今の会話で、「彼女は医者だから、手当ができるのは当然だ」とは言わず、ただ「手当てが得意」としか言わなかった。
彼女が何らかの理由で自分の正体を隠していることを悟って、あえて口外しなかったのだ。
その配慮に彼女は心の中で密かに感謝した。
(そーいや、俺の手当もしてたな)
高杉は雅とは別の過去を思い出した。
道場破りで銀時にこてんぱんにされて、怪我を負った時のことだ。
目を覚ましたら、自分は布団の中にいて、そしてそばには彼女がいた。
第一印象は冷たい雰囲気で、目があったときは一瞬ぎょっとした。
だから、そんな彼女が手当てを施したことが意外で驚いた。