第13章 青い髪、赤い血
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回想
夜。とある民家にて。
まだ3つほどの小さな女童が、机で文字の読み書きの練習を熱心にしていた。
「雅」
後ろには30代ほどのきれいな女性がいた。
特徴は青い長髪。翡翠色の瞳。通りすがる人が二度見してしまうほどの優美な姿。
女童と顔立ちはあまり似ていなかったが、女童も母親に負けないくらい可愛かった。
「母さん」
「勉学に励むのは結構だけれども、何事もやり過ぎは毒よ。そろそろ寝なさい」
「はぁい」
硯と用紙を机の引き出しに片付けて、母親と一緒に布団を敷いた。
「母さんも寝る?」
「私はまだやることがあるわ」
「でも、母さんも今日は疲れているでしょ。一緒に寝たい!」
母親はやれやれとため息をついて、しょうがないなと少しだけ寝ることにした。
娘の隣に新しい白い布を敷いた。
「ねえねえ。お父さんは、いつ帰ってくるの?」
「!」
娘は不安そうな目で母親を見つめた。
しかし、母親は娘にニコっと笑った。
「そうね。今干してる柿が、干し柿になる頃には帰ってくるんじゃないかしら?」
「え?お父さん干し柿になるの?」
「人の話はちゃんと聞きましょうね」
この子の父親は、ワケあってここにはいない。
3年前、この子が生まれてすぐこの家を出てしまったのだ。
「お父さんはね、お国のために戦っているのよ。私たちが生きるこの星を悪い奴らから護るために」
「……うん。知ってる」
娘は父親の顔を見たことがなかった。
ただ母親の普段の話から、とてもいい人だという想像だけをしていた。
「父さん。大丈夫なの?」
「大丈夫よ。何だって、私が見込んだ男ですもの。簡単に死ぬもんですか」
(に、にこんだ?煮込みハンバーグ?)
3歳児に難しい言葉は分かりにくいらしい。
「そういえばお母様、今日も団子屋の人に美人って言われてたよ」
「ありがとう。そういうアナタは、顔は本当に父親そっくりね」
「ねえ、そのタイミングで言ったら私がブスみたいになるから止めてよ」
普通の母と娘の微笑ましい会話。
でも娘にとってこの普通は、有り余るくらい十分だった。
憧れの人や家族もいる。
彼女の理想や夢も、最初からすでに揃っていた。