第11章 二度あることは三度ある。いや四度あるかもしれんから気ィ付けろ
翌日、戦はいつも以上に過激な状況だった。
永禄山での殿戦。
幕府軍1000と相対する我ら300の軍の背後に、天人の軍勢3000が迫っているとの情報が入った。
撤退戦を余儀なくされた。桂と銀時の部隊が仲間を逃がすために殿を務めることとなった。
彼女は戦に出ない代わりに、拠点で多くの負傷者の治療に専念した。
(今回はヤケにひどいな…)
広間に横たわっている負傷者の数を見れば分かる。今まで以上に苦戦している。
雅以外にも軍医がいるが、彼女を司令塔として拠点で多くの治療をなしている。
「雅さんッ!」
呼ばれれば、それは瀕死の重症患者がいるというサイン。
多量出血で意識が朦朧としている志士がいた。
(この人の血液型は…)
並外れたおつむで言い当てて、輸血をすぐに執り行った。
必要であれば麻酔を投与して、痛みを無くしてから縫合を始める。
心臓や肝臓などデリケートな部分も、箸で魚の骨と身を分けるように、あっさりと施術した。
その際使われる麻酔薬も、彼女自身が作ったものだ。
驚くべきことに、彼女は3つの時から医学書を絵本代わりに読んでいた。
だから、人間版レバーやホルモンなどの内臓の部位も、幼い頃から頭にたたき込んでいて、その知識は伊達じゃない。
(さすが雅さんだ。あの方がいれば、必ず救ってくれると安心できる)
戦で厄介なのは致命傷を負うことだけではない。
殺される恐怖が脳裏によぎり、二度と戦えなくなることだ。
誰もが命かけて戦えるものじゃない。
しかし必ず治してくれる凄腕の人がいるから、どんな怪我を負って帰っても安心感がある。
モブは戦いの度に、こんなことを考えていた。
そして夕方前には、重傷者の治療はほぼ終えることができた。
(なんとか峠は越したみたいだな…)
気になることと言えば、永禄山で囮役を引き受けた銀時や桂はおろか、辰馬と鬼兵隊が帰ってきていないこと。
またケガ人が来るかもしれない。
次の治療の準備に取りかかろうとしたが、ミスを犯してしまった。
(あ、ヤベ、治療薬キらした)
卵をきらした主婦のような脱力感に襲われた。