第3章 賞味期限切れにはご注意
あの時を境に、俺は雅という存在を知った。
試合では勝てるかヒヤヒヤした。
そこで銀時は、“お前が女に負ける無様なとこ拝むの楽しみだったのにな”とほざいてたが。
それを機に、俺はあの女とたまに会うことはあったが、ソイツは独りでいる時と何も変わらなかった。
松陽先生が背中をおしてしぶしぶみたいな感じだったな…
回想
〈松下村塾 台所〉
ヅラと雅の3人(銀時はサボり)でおにぎりを握っていた(という名の儀式の)時だ
俺がいつものアイツと違う様子を、初めて見たのは…
沈黙の中、ヅラは交流を深めようとふとあることを聞いた。
「雅。1つ聞きたいんだが…」
それは、出会ってからふと思ってた些細な疑問。
「お前の姓を聞いたことがないんだが」
「!」
ピタッ
雅のおにぎりを握る手が止まった。
得体の知れない何かを目の前にしたかのようにビックリした表情になった。
(そんな顔もするのか…?)
初めて見た表情に、俺は耳を傾けた。
「…どうして?」
「いや、女子を名前で呼ぶのは少し慣れんというか…」
そのもじもじした様子に、俺は口出しした。
「女ヅラもそのシャイさも乙女かお前は?」
「ヅラじゃない桂だ」
しかしあの時、俺にとっちゃアイツなんてどうでもよかった
姓なんざなおさら
(知ったとこで、俺には何の関係もメリットもねェ。馴れ馴れしくするもされるも嫌だしな。特に女は)
雅はまた無表情になり、これだけ返した。
「…言えない」
『?』
俺とヅラは、その言葉の意味を理解できなかった。
「氏は…名乗らないことになってるから…」
「どういうことだ…?誰かに言われたのか?」
「……」
ヅラに質問されても雅はさらに黙りになった。
この時、俺たちは知らなかった
雅が自分の姓を言えねェ
“本当の理由”を
(コイツの氏に、いやコイツ自体あまり興味はないが)
その態度を気に食わない俺は、一言言ってやった。
「自分だけは氏を名乗らないのは侍としてどうなんだ?」
すると、雅は少し考えてから口を開いた。
「じゃ私が、アンタらを名前で呼べば問題ない…」