第1章 プロローグ
食事を終えた洋子はテレビを消して食器を下げて流しで洗い始めた。
「明日も仕事頑張らなくっちゃね。」
食器を洗い布巾で拭き終えたら着替えを鞄に詰めて部屋の電気を消して玄関を出ると鍵を閉めた。これから銭湯へ向かうのだ。この時代にはまだ内風呂は普及しておらず銭湯が一般的だ。
「風が気持ちいいな。」
今は春真っ只中。都会でも桜が咲き始めていた。
洋子は銭湯へ行った帰りに通りすがりの公園へと目を向けた。暗くてわかりにくいが確かに桜は咲き始めていた。
「さて、家に帰って何しようかな?」
と考えながらスキップをして家路に着いた。
翌日も洋子は仕事であった。洋子が勤めているのは小さな映画会社である。今この会社ではある映画を売り出そうとしていた。
「戦争映画を売り出そうと思う。日本と言う国を背負い軍隊に行く彼と出会った女性との恋物語だ。」
社長の川畑はそう述べた。
「それで映画の題名は何なのですか?」
洋子はワクワクして社長に聞いた。
「”愛してやまない彼は軍隊に”という映画だ。」
「なんか題名が長い気がしますけど?」
洋子と綾乃は題名を聞いて首を傾げた。
「まぁ、気にすることはない。去年だってこうして映画が売れたのだからな。うちの会社も着実に実績を積んでいるぞ。」
社長は誇らしげに笑った。
「社長はああ言うけど去年宣伝して売れた映画って”お母さんの泣きほくろ”の1作品だけだって前に先輩が言っていましたよ。」
社長の言葉に綾乃が洋子に囁いてこう言った。
「ふうん、そうなんですね。」
洋子も話を合わせ頷いた。
「でも有名は女優さんや俳優さんが出た映画なのでしょう?」
洋子は綾乃に聞いた。
「それが、私も知らない出演者ばかりだったんですよ。ベンジャミンとか明らかに外国人使っていますよね?」
「なるほどね。そうなんですかね?」
洋子はまだ納得はしていない様子だった。
「それはだな。戦争も終わってアメリカとも仲良くしていかなきゃいけない訳だよ。そこで外人さんを起用させてもらったのさ。」
社長は自身満々に言って映画の事を熱く語り始めた。
社長ときたら仕事の話になると夢中になって話しだすのだから聞いているこちらもつらくなってくるのであった。