第7章 二人の宝物
凛はチラリと虎千代の
様子を伺い、遊んでいるのを確認すると
触れるだけの口づけを落とす。
「‥凛。」
ふふっと凛は微笑み、
照れたように頬を染めた。
「私がこうしたいと思うのは
謙信様にだけです。」
抱きしめてもらいたいのも、
口づけをしたいのも、
愛されたいと思うのも。
「虎千代は私達の宝物です。」
私達の愛の形。
愛が実った証。
「だから私は虎千代が愛おしいんです。」
他の誰でもない、謙信様の‥。
謙信様との子供だから。
そう言って凛は
ふわりと華が咲くように笑った。
「‥俺とお前の‥愛の証‥。」
「父上ー!母上ー!」
虎千代に呼ばれ振り向くと、
両手で何かを包み込み
こちらに走ってくる姿が見えた。
「初めて蛙を捕まえた!」
二人の傍まで来た虎千代は
見て!と嬉しそうに手を広げた。
その小さな手のひらには小さな蛙が
ちょこんと乗っている。
「わあ!虎千代、凄い‥」
「良くやったな。虎千代。」
凛が凄いね!と言うより早く
謙信が虎千代を褒める。
初めて褒められたのか
虎千代は一瞬、ポカンとしたあと
へへっと照れ臭そうに微笑んだ。
「あっ!」
手のひらからピョンと蛙が跳ね、
一目散に逃げていく。
「行っちゃった‥。」
ショボンと肩を落とし残念がる虎千代。
謙信は一瞬、考えた素振りをすると
縁側から降り立ち虎千代に並ぶ。
「では、明日は一緒に捕まえに行くか。」
ポンっと虎千代の頭に手を乗せる。
「謙信様‥。」
謙信の優しい声色に
虎千代はパアッと表情を輝かせて
謙信を見上げた。
「はい!」
「表情がコロコロ変わるところは
母親にそっくりだな。」
「そうですか?」
ふふっと凛は微笑む。
「ああ、二人の子供だからな。」
そう言って、虎千代を見つめる
謙信の瞳は愛しさで溢れていた。
凛も縁側から降り立ち、
虎千代を間にして三人で手を繫ぐ。
三人の未来を照らすように
気持ちのいい日差しが
キラキラと降り注いでいた。
end.