第2章 どこまでも
【上杉謙信編】
「ご馳走様でしたっ。」
朝餉を食べ終え、手を合わせる。
(今日、たしか謙信様は午前中は大名の方と
謁見があるし邪魔にならないようにしよう)
朝餉を下げにきた女中さん達を手伝いながら
ぼんやりと考えていた。
「謙信様、今日は謁見があるんですよね?」
「ああ、よく覚えていたな。」
よしよしと優しく頭を撫でられる。
謙信の手のひらから伝わる温かさに
頬が緩んでくる。
「では、私は謁見のお邪魔に
ならないようにしていますね。」
(久々に城下に行って反物でも見よう)
ニッコリと微笑み、立ち上がると、
「凛‥?どこへ行く?」
パシッと腕を掴まれる。
「城下に反物を見に行こうと思ってます。」
謁見が終わる頃には戻りますね、と伝えると
色違いの綺麗な瞳が微かに揺らいだ。
「‥ここにいろ。」
凛の返事を待たず掴まれた腕を引かれ
謙信の腕の中に捕らえられる。
「で‥でも、謁見のお邪魔に‥。」
腕の中にスッポリと包まれたまま
凛は謙信を見上げた。
「お前が邪魔になどなる筈なかろう。
お前は俺の傍から離れるな。」
そう言って愛おしそうに見つめられ、
壊れ物を扱うように優しく抱き締められる。
それだけで、凛の心臓は
早鐘のように鳴り始めた。
「‥んっ」
触れるだけの口づけから、
段々と深いものに変わり始める。
「んんっ‥ふぁ‥」
思考さえ奪われるような口づけ。
凛の身体から力が抜けるのを見て、
ようやく唇が離れていく。
満足気に、妖しく微笑む謙信の目には
愛しい女の潤んだ瞳が映っていた。
「凛‥傍にいろ。よいな‥?」
「謙信様‥。」
ダメだと思いながらも身体が動かず、
謙信の着物の袖を掴む。
「ダメです。」
「!!」
凛がドキッ!と身を震わせると同時に
いつから居たのか、襖が開き佐助が現れる。
「謙信様、たまには凛さんにも
自由を与えてあげないと嫌われますよ。」
「そうだぞ、謙信。姫だってたまには
息抜きくらいした方がいい。
なんなら俺が城下を案内しようか?姫。」
「あんたも今日は謙信様と謁見でしょーが。」
「佐助くん!信玄様に‥幸村まで!」
(ど‥どこから聞かれてたの?!見られた?!)