第5章 恋敵は突然に
【謙信ルート】
「‥私は‥。」
皆の視線が痛いほど刺さると
胸の鼓動がより大きく、早くなる。
「‥私は、耳が‥くすぐったい‥です。」
尻すぼみに言い終えると
頬に熱が集まり、だんだんと
耳まで熱くなってくるのが分かる。
「この勝負、謙信様の勝利です!」
佐助が声高らかに宣言する。
「当然だろう。」
俺以外に凛の弱点を知られたのは
不本意だがな、と言いつつも
謙信の口は満足気に弧を描いた。
いつの間にか集まっていたギャラリーの
家臣達がワアッと歓声を上げる中、
一人の男性がその間を縫って
凛達の前に飛び出してくる。
「小太郎!!」
その男性は小太郎に向かって声を荒げた。
「父ちゃん!」
小太郎はビクッと肩をすくませる。
「お前!謙信様に何と言う無礼を!」
そう言うと、小太郎の襟首を掴み
自分も一緒に深く頭を下げる。
「誠に申し訳御座いません!
倅が、とんだご無礼を‥!」
額に汗を滲ませ、小太郎を掴むその手は
震えているようにも見える。
そんな父を見て、小太郎の表情も
硬く、強張っていく。
シン‥と静まり帰ったその場に
謙信の涼やかな声が響く。
「頭を上げよ。」
ハッと小太郎の父は顔を上げる。
「咎めはしない。」
お前の息子は人を見る目があるようだ、
職人としてお前の腕が良いようにな、と
言うとフッと微笑んだ。
「謙信様‥。」
ありがとうございます!と
再び深く頭を下げる。
「遊びは終いだ。各々、仕事に戻れ。」
成り行きを見守っていた家臣達も
安心したようにその場を離れ始める。
「小太郎。」
ふいに謙信が小太郎を呼び止める。
「凛はやらんが、勝負なら
いつでも受けてやる。」
その言葉に小太郎はニカッと笑った。
「いつか絶対!勝ってやる!」
じゃあなー!と小太郎は
父の後を追いかけていった。
「謙信様っ」
凛はタタッと謙信に駆け寄る。
「凛。おいで。」
謙信は両手を広げ、凛を抱き止めた。
「どうなるかと思いました。」
凛はおどけたように微笑む。
「俺が勝てぬのはお前だけだ。」
お互いの温もりを確かめるように
強く抱きしめ合った。