第4章 桜カーニバル
【おまけ】
「おい、家康。いつまで不貞腐れている?」
光秀は隣を歩く家康に声をかける。
「‥別に不貞腐れてないです。」
お抱えの酒屋で購入した安土の銘酒を
両手に下げて歩く家康は、
めんどくさいだけで‥と心の声を漏らした。
光秀は家臣達の分も買いこんだ酒を
馬に乗せ、手綱を引いている。
「こんな機会は滅多と無いぞ。」
「‥無くても大丈夫です。」
相変わらずの家康に
光秀はニヤリと笑って見せる。
「では、これをやろう。」
光秀は懐から小瓶を一つ取り出す。
「‥なんですか。」
家康はチラリと小瓶を見やる。
色は無色、小瓶の見た目は可愛らしく
凛が好みそうな代物である。
「先日、隣国へ潜伏した際に手にいれてな。」
好いた女に飲ますと想いが通じると
国中で噂になっていたのでな、と
小瓶を降ってみせる。
「いわゆる、媚薬と言うやつだ。」
「‥なんで俺に?」
相手が光秀ということもあり、
家康の疑いの眼差しがより強くなる。
「おや、てっきり凛を
好いていると思っていたが‥。」
ニヤニヤと笑みを深める光秀。
「‥そんなもの必要ないです。」
凛のことは否定せず、
余計なお世話と言わんばかりに
家康は光秀を睨む。
「そうか。余計な世話だったな。」
光秀がククっと笑い、小瓶を懐に収める。
家康はその様子を横目で見やる。
(‥凛に媚薬‥?)
いつも可憐で少女のような凛が
誰かに媚薬を盛られ、女の色気を纏い
乱れる姿を想像する。
「‥一応、貰っときます。」
(そんなの誰にも見せられない。)
「‥成分調べるだけなんで。」
使わないですけど‥と付け加え、
受け取った小瓶を懐に収める。
「ククっ‥天邪鬼め。」
光秀が空を見上げると、
綺麗な夕日が安土を包んでいた。
(愉しい宴になりそうだ。)
開宴まで、あと数刻。
end.