第1章 春日山城の朝は早い
(今日もいい天気‥)
凛は雲一つない真っ青な空を見上げた。
凛が謙信と恋仲になって
もうすぐ二ヶ月程になる。
春日山城での暮らしにも慣れてきて
最近は戦も無く、穏やかな日々が続いていた。
(もうすぐ梅の花が咲きそう‥)
そんなことをボンヤリ考えながら
凛は中庭に面した縁側に座り、
謙信が凛の為に国中から集め
綺麗に植えられた花達を眺めていた。
「おはよう、凛さん。」
「あ、おはよう、佐助くん。」
ふんわりと微笑み返す。
「まだ朝早いのにどうしたの?」
明るいとはいえ、朝餉には
まだ大分時間がある。
「新しいマキビシの試作品を作ってた。
そしたら寝るのを忘れていた。」
「ええっ!ずっと作ってたの?」
(やっぱりマキビシへの愛が凄い‥)
この乱世で唯一の現代人仲間の佐助は
異様にマキビシへの愛が凄い忍者で、
日々が研究に没頭していた。
「うん。おかげで今回のはいい出来だよ。」
(あとで幸村で試そう)
無表情ながらも満足気に答える。
「ん?そういえば謙信様は?」
「先に目が覚めちゃって。
まだよく寝てらっしゃったから
起こさないように抜けてきたの。」
「そうなんだね。」
(優しい人だな‥うん。好きだ)
朝日を浴びて凛の白い肌が
より一層、透き通って見える。
佐助は触れたい衝動を堪えるかのように
目線を凛から外した。
「まだ朝餉まで時間もあるし、俺と‥」
「おー。佐助、凛。はえーなー」
「あ、幸村。おはよう」
いつの間にか佐助の横にいた幸村は
まだ眠そうに欠伸をしている。
「おー。」
いつもの気のない返事をしながら
幸村は凛の横に腰を下ろした。
(今日も可愛いな、こいつ‥)
幸村は隣に座って微笑む凛を見て
同じように微笑んだ。
「‥‥くらえ、幸村。」
言葉を遮られた上、凛の横を
奪われた佐助は持っていた試作品の
マキビシを幸村に投げつけた。
「うおっ!?危ねえな!!」
「そこだっ!」
ギャーギャーと二人の攻防が始まった。