第12章 二人の宝物 三章
「ち、父上!怖いよ!」
「あ?何言ってんだ、秀宗!」
こんなの速い内に入らねーよ、と
六歳になる息子を乗せた政宗の馬は
ドンドン速度を上げていく。
「母上がいい~!」
今にも泣き出しそうな息子を見て
少しだけ速度を緩めると、
後ろから凛の声が聞こえた。
「もう!政宗、子供を乗せて
疾駆けしたら危ないよ!」
プンプンと怒りながら
政宗の馬と並走する。
「母上、もっと速く!」
「おっ、忠宗。気が合うな。」
帰りは俺の馬に乗せてやるよ、と
凛の馬に乗る四歳の次男に
ニヤリと笑ってみせる。
「僕は母上が良いよ‥。」
「まあ、そう言うな秀宗。」
速いのが怖いのか、なかなか
馬に慣れない秀宗に
政宗はふっと微笑んで見せた。
「ほら、前見ろ、前。」
「‥っ、やだよ!」
「真正面から風を受けた方が
気持ちいいだろ。怖がってちゃ、
楽しめるもんも楽しめねえぞ。」
政宗の優しい声色にも
まだ目を開けようとしない秀宗に
凛が優しく声を掛ける。
「秀宗、母上もね、昔は怖かったの。」
凛は政宗と、出会ったばかりの頃を
懐かしむように目を細めた。
「でもね、父上と一緒なら
怖い事も楽しいって思えるんだよ。」
ね?と政宗に微笑んで見せる。
政宗は、ふっと笑みを溢し
前に座る秀宗を片手で抱き寄せた。
「そうだぞ、秀宗。」
俺がしっかり抱いててやるから、と
声をかけると秀宗が小さく頷いた。
ビュンビュンと風を切る音に
心臓が壊れそうな程、脈打つ。
政宗の腕の温かさと、凛の
優しい声色に後押しされて
秀宗はゆっくりと瞼を持ち上げた。