第11章 二人の宝物 二章
「重家、起きて!」
かろうじて見えている手の甲を
トントンと叩き、周りの本を
慎重に除けていく。
ようやく見えてきた身体に
寄り添うようにして
三成の身体も見えてきた。
「三成くんも!起きてー!」
(なんで本に埋もれたまま眠れるの?!)
これまで幾度となく浮かんだ疑問が
今日もフツフツと湧いてくる。
しっかりと三成の遺伝子が
脈々と受け継がれている事が
嬉しくもあり、不安でもあった。
身体の上の本を全て取り払うと
重家の目が薄っすらと開く。
「もう朝‥か。」
バサバサっと音を立て、
周りの本を崩しながら
重家がゆっくりと身体を起こすと
重家の身体の上にあった本が
流れるように三成を埋めていき、
その中の一冊が三成の額に落ちた。
「痛‥い。」
額を手のひらで押さえると、
再び眠ろうとする三成。
「み、三成くん!起きて!」
「父上、起きて下さい。」
いつもなら凛に任せて
本を読み出す重家が珍しく
凛より先に三成を揺する。
驚いて、その様子をポカンと
見つめる凛を他所に
重家は三成をこれでもかと揺らし続ける。
「父上!車懸りの陣とはなんです?」
はやく続きを!と、重家は
薄っすら瞼を持ち上げた三成に
矢継ぎ早に質問していく。
「し、重家?そんなに揺らすと父上が‥。」
襟元を捕まれ、ユサユサと
揺らされながらも三成は口を開いた。
「重家、車懸りの陣というのは‥。」
よいしょ、と三成が起き上がり
傍に転がっていた眼鏡を掛け直す。
「自分の部隊を円形に配置し、
第一陣、二陣‥と次々攻撃を仕掛け
敵の本陣に休む隙を与えず、疲弊を誘う
攻撃に特化した布陣です。」
近くに落ちている戦術書を広げ、
図を見せて説明すると
重家の瞳がキラキラと輝く。
「すごいですね!」
「そうですね。‥ですが、
この布陣は謙信殿のように
統率力があり、戦慣れした部隊で
なければなかなかとれる布陣では
ありません。」
ペラペラと項をめくり、
その中の文字を指し示す。
「やはり鶴翼の陣がいいでしょうね。」
と、三成が微笑むと
重家は別の戦術書を取り出し、
これは?これは?と
次々に三成を質問攻めにする。
(‥すごいなあ。)
凛は、そんな二人のやり取りを
ぼんやりと見守っていた。