第11章 二人の宝物 二章
「あれ?そういえば真理は‥」
と、凛が周りに目配せすると
開いたままの襖の向こうに
真理姫の寝間着の裾が見えた。
「ねえさまー。」
「こっちー。」
布団の上でもつれあっていた双子は
タタタっと駆け寄り、
襖に寄り掛かっていた真理を
引っ張って連れてくる。
「真理、どうしたの?」
義信の横にストンと腰を降ろした真理は
下を向いて俯いたままだ。
「ねえさまねー、悲しいのー。」
「ゆきむらねー、いないのー。」
凛の膝の上でキャッキャと
笑いあいながら、交互に話す双子。
「幸村がいないくらいなんだよ。」
兄様が遊んでやるって言ってるのに、と
少し寂しそうに義信は呟いた。
その様子を見ていた信玄は
ちょいちょいと義信を手招きして
義信を片膝に乗せる。
「可愛い真理もおいで。」
チラリと信玄の顔を見ると、
ちょこちょこと歩いて
信玄の空いた方の膝に座る。
「お前たちは父上と母上の宝物だ。」
義信、真理、松、菊と
順番に視線を合わせていく。
「こーんな可愛い宝物に囲まれて
父上は幸せすぎるくらいだ。」
膝に乗せた義信と真理を
大きな両腕でギューっと抱きしめる。
それを見た松と菊も
凛の首に抱きつき、
頬を擦り寄せる。
「母様もとっても幸せよ。」
ふわりと微笑むと、子供達も
つられて嬉しそうに微笑む。
「だから今日は皆で出掛けるぞ。」
余裕たっぷりの表情で、信玄が
子供達を見やると子供達の表情が
段々と明るくなり、
「やったあー!」
「ほんとに?!どこへ?!」
義信と真理が飛び跳ねて喜ぶ。
それを見て松と菊も
真似してピョンピョンと跳ねた。
「やったー!」
「わーい!」
「いつも幸村に任せてばかりだからなー。」
俺も幸村に負けてられないだろ、と
喜ぶ子供達を見ながら信玄は
凛の腰を抱き寄せた。
「信玄様は立派な父親ですよ。」
「ありがとう。」
ポンポンと凛の頭を撫でると
布団から立ち上がる。
「ほらほら、準備しろー。」
はやくしないと置いてくぞーと
声を掛けると子供達は
満面の笑みで駆けていく。
「今日は愛しい天女と天使達と
目一杯楽しむとしよう。」
キラキラと輝く朝日に負けない程の
笑顔で振り向いた信玄に、
凛は大きく頷いた。
end.