第7章 二人の宝物
「はい、桔梗さん。お祝いの品。」
佐助はそっと桔梗の手のひらに
綺麗にラッピングした小袋を乗せる。
「特製のかんしゃく玉だ。」
そう言ってフッと微笑む佐助。
「おい、子供にそれはねーだろ。」
「大丈夫だ、幸村。
桔梗さんでも持ちやすい様にしてある。」
「いや、そーゆう問題じゃねえ。」
「桔梗、これをやろう。」
光秀が取り出した小瓶を見て
家康が瞬時に反応する。
「これはダメ。」
綺麗な小瓶を取り上げられて
むすっと頬を膨らませる桔梗。
「家康?それ何なの?」
綺麗な小瓶だけど‥香水?と
凛がキョトンと首を傾げる。
「なんでもないから。」
家康は小瓶を光秀の懐に
無理やりねじ込んだ。
「おや、残念だ。」
ではもう少し大人になったらやろう、と
光秀はクククッと喉を鳴らした。
「桔梗、こちらに来い。」
「桔梗、こっちだ。」
二人に交互に名前を呼ばれ、
右に左にと困った顔をする桔梗。
「独眼竜、邪魔をするな。」
二色の瞳が政宗を鋭く睨む。
「ぬかせ、越後の龍。」
桔梗は死んでもやらん、と
政宗がふんと鼻を鳴らす。
「ほう、ならば死んでみるか?」
音もなく愛刀を引き抜く謙信に
政宗が愉しげに笑ってみせる。
「桔梗の誕生祝いだ。」
その首、置いていけと
政宗もスラリと刀を引き抜いた。
「こらっ!!何してるの!!」
謙信様も、政宗も刀を納めて!!と
二人の背後から凛が声を張り上げた。
「せっかくの桔梗のお祝いなのに‥。」
怒ったかと思えば、ションボリと
肩を落として瞳を潤ませる凛。
「あー‥わかった、悪かった。」
だからそんな顔するな、と
政宗が慌てて刀を納める。
「‥ふん。」
凛の表情を見て、謙信も
渋々と刀を納めた。
「もしかして一番強いのは凛かもな。」
「そうかも知れませんね、秀吉様。」
あの表情には勝てる気が致しません、と
エンジェルスマイルを浮かべる三成。
桔梗の誕生日を祝う宴は、
盛り上がるにつれて
いつからか凛と桔梗を
武将達が奪い合う戦へと変わっていった。
「‥もう帰りたい。」
「ん?なにか言ったか、家康。」
「‥何でもないです。」
家康の呟いた小さな心の声は
戦の喧騒に呑まれていった。
end.