第2章 白髪の二人
そこに書かれていたのは。
《大丈夫、あなたは深夜より強い》
というシンプルな言葉だった。
グレンは思わずスイの顔を見る。
すると彼女は、ごく薄く笑みを浮かべた。
(……まじかよ)
この女、柊深夜よりある意味で厄介かもしれない。
自分の実力をすでに把握されている、とグレンは悟ったのだ。
深夜にしてもグレンの実力は高いと信じ込んで疑わないが、それはあくまでも憶測だ。
だが彼女は違う。
今朝の出来事一瞬で、グレンの一挙手一投足を見て、その能力を見極めた。
(果たして俺はこの女に勝てるのか?)
スイについては、謎が深まるばかりだ。
とにかく、一刻も早くこいつの実力を調べなくては、とグレンは考える。
にしても、初日からずいぶんと面倒な奴らに目をつけられたものだ。
まあ主に深夜だが。
とそこで、女教師が言った。
「では、そろそろ入学式の時間です。みなさん、いきましょうか」
それで生徒たちが立ち上がる。
深夜も立ち上がり、言う。
「じゃ、いこうか。僕ら共通の女神様のスピーチを聞きにさ」
女神とは、おそらく真昼のことだろう。
だがあの日、大人たちに引き離されて以来もう、真昼とは十年は会っていなかった。
だからいまさら、彼女の名前が出たところで、どういう感情を持っていいかが、グレンにはわからない。
だが、いまから真昼がいる場所へいくのだという。
真昼が新入生代表のスピーチをするのだという。
まさか彼女と、こんな再会の仕方をするとは思っていなかったのだが。
深夜がこちらに手を出して言ってくる。
「さあいこうぜ、グレン」
親しげに、名前を呼び捨てにしてくる。
そして驚くことに、
「……グレン、いこう」
スイも俺の名前を呼んだ。
多少驚いたものの、グレンは二人を見上げ、顔をしかめ、深夜の手を払う。
「俺に、近づくな」
「はは」
そしてグレンたちは、講堂へと移動した。