第7章 〜空〜
地獄の業火は、きっとこんな色なんだろう
きな臭い匂いが漂ってきたかと思うと、あっという間に蔵の高窓から煙が吐き出された。
翔は跳ね上がるように立ち上がると、蔵の重い扉を開けた。
「智っ…智っ…」
幽鬼のような姿をした使用人の潤が入っていって、半刻ほど過ぎていただろうか。
その間、翔は為す術もなく蔵の扉の前で五助を抱えて震えていた。
”あなたを傷つけるつもりは無いんだ―――”
あの潤の言葉で、全てを悟った。
だが、翔には止めることはできなかった。
父様を…あの男は…
わかってはいたが、翔にはそれを止めることもできなかった。
自分の父親が、愛する兄に何をしているのか。
翔は全てを知っていた。
知っていたが、どうすることもできなかった。
殺したいと思ったこともある
智を救い出し、誰も知らないところで二人きりで暮らす夢を何度も見た
だが…現実の自分に、一体何ができる
あの男はきっと、父親を殺すだろう。
だが、それで智がしあわせになれるなら…
己の手を、血で汚さずに
願いが叶うのなら
こんならくなことはない