第1章 ー雪ー
幼い潤に与えられた仕事は、大野家の長男、翔の話し相手。
照の話によれば、翔は潤よりも二つ歳上で、中学校に通っているとのことだった。
とりわけ成績も優秀で、人望も熱い翔は、別段“話し相手”など、必要とはしていなかった。
“話し相手”…そんなのは建前で、実際には掃除や洗濯に至るまでの、下働きとして潤は買われたのだ。
大野家での奉公の日々は、幼い潤にとって、苦でしかなかった。
小さな手は荒れ、冬になれば水仕事のせいで赤切れてしまった指先の痛みに、夜な夜な布団の中で涙を流すこともあった。
逃げ出したい…
父ちゃんや母ちゃんのいる家に帰りたい…
貧乏でも、ここでの暮らしよりは、ずっとマシだ…
そんな想いに駆られることも、一度や二度ではなかった。
それでも何とか耐えられたのは、年季さえ開ければまた家に帰れる、その信じて疑わなかったからだ。
だが、何年経っても潤の迎えは、とうとう来ることはなかった。
自分は騙されたんだ…
父ちゃんにも、母ちゃんにも捨てられたんだ…
潤は幼心にも自分の境遇を何度も呪った。
そうして辛い日々を過ごし、気付けば潤は少年から立派な青年へと成長していた。