第1章 ー雪ー
「さあ、入りな」
照に連れられ通されたのは、小さな明り取りの為の窓が一つあるだけの、ニ畳程の小さな部屋だった。
壁際には、暖かそうな布団の代わりに、ぺしゃんこの煎餅布団が一組。
「あ、あの…俺、この家の子になるんじゃ…」
照は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに口の端を上げ、
「いいかい、よくお聞き? あの男がなんて言ってお前を連れて来たかなんて、あたしには関係ないことだ。だけどね、一つ言えるのは、お前はこの屋敷で奉公する為に連れて来られたんだよ。どうせ親の借金のカタに売られたんだろ?」
そう言って照は潤の手に着物を渡した。
『借金のカタに売られた』
幼い潤に、その言葉の意味は分からなかった。
でもその言葉が酷く悲しい言葉だということは、幼いながらにも容易に理解することが出来た。
着ていた着物を脱ぎ、渡された着物に袖を通す間、潤の涙が止まることはなかった。
それでも容赦のない照の言葉が潤に降り注ぐ。
「ぐずぐずするんじゃないよ、さっさとおし!」
潤はなんとか着替えを済ませ、足早に前を歩く照の後を必死で着いて歩いた。
自分の置かれた境遇を悲しむ暇も与えられないまま、その日から大野家での潤の奉公は始まった。