第6章 雪・月・華 ~その白き腕に~
早く…早く…
逸る気持ちを抑えて、潤は蔵へと走っている。
誰にも見つからないよう周囲に気を配りながら近づく。
懐の五助がきゃんと鳴く。
しーっと唇に人差し指を当てて、潤は蔵の扉をそっと開けた。
奥の扉の中に足を踏み入れた途端、聴こえる声…
わかっているのに、その身体を駆け巡るどす黒い感情。
潤は五助を抱きしめることで、その感情をやり過ごす。
物陰に隠れ、その時間が終わるのを待つ。
ぺろぺろと五助が潤の唇を舐めていく。
その舌を感じながら、潤は初めての口付けを思い出す。
絶え間なく聴こえる嬌声
衣擦れの音
男たちの荒い息遣い
智…触れたい…智…
滑らかな白い皮膚を流れる銀糸の髪
魅惑的に男を見上げる赤い瞳
苦しげなのに誘いこむような嬌声
男を咥え込むなめらかな腰の線
見えていないのに、はっきりと潤の瞼の裏に蘇る。
思わず出た吐息に口元を掌で覆う。
毎日蔵に忍び込んでいるが、この時間が一番長く感じる。
早いと十分ほどで終わることもあるのに…
潤には二時間にも三時間にも感じられた。
やがて男たちの気配が消えた。
潤は立ち上がると五助を懐に入れ、布団に取り残された智の元に歩み寄る。