第5章 最憶君 <based on 雪・月・華>
月明かりが眩しい…。
今夜も僕は眠れない。
だって…この瞬間も貴方が辛い目にあっているから…。
いつものように部屋の窓から見える小さな蔵を見つめる…。
僕に出来るのは見つめるだけ…。
なんで僕はこんなに無力なんだろう。
握りしめた拳にはなんの力もない…。
あの中に閉じ込められているのは僕の兄…。
双子の片割れ…。
でもきっとあの人と双子だと言っても誰も信じてくれない。
だって兄さんは…智は…とてもとても美しいから。
真っ白で汚れのない智。
毎晩のように穢らわしい男たちに蹂躙されているのに…。
智は決して穢れない…。
真っ白で綺麗な智を父様は八百比丘尼(やおびくに)の化身と言う。
八百比丘尼…。
人魚の肉を食べて800年生きたと言われる伝説の尼僧。
真っ白な智はその生まれ変わりでその体液を啜れば寿命が伸びると父様は嘯く。
そして智をあんな狭く暗いところに閉じ込め、智を利用して私服を肥やしてる…。
醜い奴等がその命を永らえたいと薄汚い手で智を汚す。
人の欲につけこむ父様が嫌いだ。
その父様の庇護の元でしか生きれない自分も嫌いだ…。
あの場所から智を…愛する人を助けられない自分が…嫌いだ。