第4章 ー雪月華ー
どこからともなく漂って来るきな臭い匂いに、照は重い瞼を持ち上げた。
畳の上に着いた手を支えに重い身体を起こすと、まるで心臓がそこにあるような鈍い痛みが照の後頭部を襲った。
照は痛む頭を片手で押さえ、小さく首を振った。
と同時に呼び起される、数時間前の記憶…
「潤…潤は…!」
壁を頼りに何とか立ち上がるが、眩暈のような感覚に足元がふら付く。
それでも縺れる足を引き摺りながら、照は部屋を飛び出した。
部屋を出ると強烈な匂いが周囲に立ち込めていた。
「まさか……!?」
いけない…!
早まってはいけない…!
心の中で何度も繰り返した。
照は着物の袂(たもと)で口元を覆うと、転げるように使用人小屋を飛び出し、裸足のまま所々に水溜りの残る庭に駆け出した。
降り続いていた雨は止み、空には永遠に続く青が広がっていた。
そしてその向こうに変わり果てた蔵を見た瞬間、照の頬を涙が伝った。
「潤…潤…どうして…」
照はすっかり焼け落ちた蔵を前に、倒れるように崩れ落ちた。
着物が汚れるのも構わずその場に突っ伏すと、泥を掴んだ拳を何度も何度も地面に叩きつけた。
その時だった。
遠くで子犬の鳴き声を照は聞いた。
照は涙と泥とで塗れた顔をゆっくり上げ、そちらに視線を向けた。