第1章 闇色夢綺譚~花綴り~
【灯、揺らめいて…。】
今夜も…
月が綺麗なんだね…。
「ふぁ…ねみ」
じゃ、俺は眠いから。
そう言った平助は自身の部屋へと戻り、お互い違う道を進んで行く。
僕は一君と交代した後、一人夜の街をさ迷っていた。
月が美しい日は何故か一君が彼女の見張り役。
別に深い意味はないんだけど、何となく、ね…。
そしてさっき二人に言った事は半分は本当。
半分は、冗談。
勿論近藤さんに何かしたら問答無用で斬っちゃうんだけど、彼女を見ていると全てに置いて躊躇してしまう。
己の手を胸に置き、何だと自身に問いかける。
それは…と、勿論返事など返って来る訳もなく、その代わり自分の胸の鼓動が速くなるのを感じるだけ。
一君が言ったように、僕も彼女が夜な夜な泣いていた事は知っていたんだ。
でも、僕は一君の様に素直じゃない。
だからあの時僕は知らない振りをしたんだ。
気が付かない振りをしたんだ。
「結局、僕も一君と同じって事か…」
寒さでかじかむ手に息を吹付け温める。
いつの間にか月は陰り黒く染まった空から灰色の花弁が舞い落ちる。
彼女を見付けた日もこんな空だった。
雨でもないのに全身が濡れて横たわるキミを見たその瞬間だった。
今でもその姿が瞼に焼き付いて離れないでいる。
言葉に表すなら幻想的、と。
脈打つ鼓動を抑え、湧き上がるこの感情に" 勘違いだ、気のせいだ " と自分に言い聞かせた。
何より、僕は近藤さんの為にある。
全ては、近藤さんの為に僕はいる。
だから見て見ぬ振りの感情。
これからも、表に出る事はないように…。
高鳴る胸を抑え、僕は空見上げ思う。
僕と同じ瞳をしたキミ。
素性のわからないキミ。
その瞳には、何を映すのだろう。
あの時、僕がキミに触れていたら…
一君じゃなくて、僕が先だったら…
キミの瞳に僕は映ったのだろうか…。
「…変なの」
何時もと違う自分自身に肩をすくめ苦笑いをする。
いつの間にか雪が止み、雲間から月が顔を出していた。
僕はもう一度空を見上げ、今日みたいに月の綺麗な日だけは素直でいよう、そんな事を思いながら心に灯った淡い炎をそっと吹き消し、皆の待つ新選組へと帰って行った。