第1章 闇色夢綺譚~花綴り~
【雪、深々と…】
これは、私と彼女が保護されて幾日か過ぎた時のお話。
「本当に…あの女の所有物なのか」
私は皆さんが集まった部屋にお茶を持って来た丁度に、部屋の中から土方さんの驚きと困惑が入り交じったような台詞が聞こえてきた。
「失礼します…」
そう言って中に入ると土方さんの目の前には一振りの刀が横たわっていた。
何とも不思議な雰囲気の刀。
例えるなら" 月 " でしょうか…。
満月には届かない、十三夜月。
とても、とても未熟で何かが足りない。
そして、誰かを探しながらずっと泣いている…そんな刀。
私は皆さんにお茶を配り終え、自身の末席に腰を下ろした時の事、斎藤さんが立ち上がり、土方さんの前に来ると刀を握り、鞘から抜いた。
「おそらく…」
刀が鈍く光る。
あの時の事は鮮明に覚えている。
静かに雪が降る闇夜に彼女は横たわっていた。
上品な薄紫色の着物を纏い、そこから覗く彼女の肌は、雪と間違えてしまいそうな程白く、翡翠を光にかざしたような髪は…
沖田さんの瞳と同じ色だった。
「土方さん、あの子物騒なの持ってるし」
危ないから僕が斬っちゃって良い?
「…駄目に決まってんだろーが」
沖田さんと土方さんの会話ではっと我にかえる。
私、知ってるんです。
口では物騒な事言っているけど…
土方さんも、沖田さんも…そして、斎藤さんも…
彼女に目を奪われていた事を…。
「とにかくだ。暫く監視し、頃合を見て尋問する…あぁ、雪村」
土方さんは私の方へ視線を向け、静かに言った。
「はい…」
こうして私は彼女のお世話と目覚めるまで監視と言う役目を仰せ付かさった。
「名前さん、貴女は…」
何者なんでしょうか…。
私は彼女が目覚めるまで、何度も何度も、流れる涙を拭っていた…。
「………」