第1章 闇色夢綺譚~花綴り~
【月、泡沫に…。】
背丈は俺と大して変わらない、変わらない筈なのだが、布団の上で震える女の身体はとても小さく、守ってやりたいと思った。
そう思った瞬間、俺は女…名前に手を伸ばしていた。
その小さく震える肩を抱きしめると名前は縋るように俺の背に腕を回し着物を力一杯掴む。
声を押し殺した様に泣く姿がとても痛々しく見ていられなかった。
泣きじゃくる名前を胸から離し、流れる涙を指で拭ってやる。
こんな時にこそ、少しでも気の利いた言葉を掛けてやれたらと思うが、俺は生憎その様な気遣いの出来る人間ではない。
翡翠の瞳が涙で滲む。
拭っても、拭っても溢れる涙。
俺はどうする事も出来ずにただ、一連の作業のように名前の目元を拭う。
震えながら彼女の唇が微かに開かれた。
逢いたかったの…。
もう、泣かないで…。
貴方に泣かれたら、どうして良いか分からなくなるわ。
ね?綺麗な顔が台無しよ?
だから泣かないで…。
最初からこうなる、こうするって決めていたの。
貴方達の、絆を再び築く為に…。
ねぇ、
もう、誰も憎まないで…
貴方には必要なの…
「幸せに、なって…」
泣いているのは、
アンタだろう…。
「寝た、のか…」
力強く握りしめていた手から力が抜け、彼女は気を失う様に眠りについた。
俺はゆっくりと彼女を布団に寝かせ未だ涙の残る目元にそっと唇を寄せる。
最後に彼女の口から紡がれた言葉。
初めて聞いた声は鈴を振るような美しい響きのする声音。
だが、俺に向けて紡がれた訳ではない…。
なぁ…アンタは俺を誰と重ねている?
アンタは誰を視ている?
アンタは…
何者だ…?